“先にやりたいことができる「場」が見つかったんです”
スタイリッシュな民泊施設。
窓からは穏やかな湾を望む。
この建物は以前、牡蠣養殖など営む水産会社の社員寮だった。
“ペンキ塗りに雨漏り修理。知り合いに手伝ってもらいながら、できるところは基本ひとりでやりました”
生計は牡蠣養殖や牡蠣小屋を手伝いながら。そんな過去の彼のことを、仲間はこう呼んだ。
“漁業もやり実業家を目指す、ギョギョリーマン”
−−人間一人じゃできるわけないやんか。
車で三重県鳥羽市の市街地からリアス海岸の絶景を望む道を20分程走れば、漁村である同市浦村町に着く。民泊施設の名前は、Anchor.(アンカー)。

ギョギョリーマンだった行野慎平さん(以下、慎平さん)がイラスト、デザイン、ときどき漁師の仕事をしながらオーナーを務める。慎平さんは静岡県からの移住者。
前職はプライベートキャンプ場をルーツに、日本各地で非日常な空間をプロデュースするヴィレッジ インク(静岡県下田市)という会社の社員だった。その関係で志摩市賢島の貸別荘の立ち上げを担当。三重県へ一時的に赴任したのが3年前だった。

とあるイベントで浦村町を訪れ、養殖漁師らのグループに出会った。以前の特集で書いた、浅尾大輔さん(以下、大輔さん)だ。慎平さんはそんな出会いを、こう表現する。
慎平:なんだここは!この人たちは・・。そういう気持ちになったのは初めてでした。漁師のイメージが変わりました。そして大輔さんは、いろんなところに連れていってくれました。
慎平さんはそんな出会いで心境の変化があったという。歴史的資産や自然資産が残るロケーション、海産物や畜産物、農作物をはじめ三重の人に惚れて、この伊勢志摩エリアで事業に挑戦したいという想いが強くなり移住を決意した。移住後に牡蠣養殖の手伝いに誘ってもらい、そのときに見せてもらったのが使われていない社員寮だった。
大輔さん:とにかく慎平とは絡みたかった(笑)。
今では漁村のテーマパーク化を目標に、ワカメ狩りやアカモク狩りなどの漁村アクティビティに取り組む二人だが、大輔さんは当時をこう振り返る。
大輔さん:牡蠣やワカメの他にも養殖で手を広げることもできた。でもアクティビティの方がいいなと。漁村の良さを活かし切れてないと思ってました。
実は大輔さんも、ホテルのサービス業経験者であり大阪からの移住者。よそ者だから見える漁村の魅力を感じていた。それが漁村アクティビティだった。
大輔さん:でも「人間一人じゃできるわけないやんか」って、慎平がくるまで自分に言い訳をしてました。
−−チカラの使い方
私事で恐縮だが、取材時はできるだけその人の生い立ちを聞くようにしている。
慎平さんに三重県に来るまでを訊ねた。
石川県出身の慎平さんは新宿の雑居ビルにある20席ほどのワインバーに就職し、料理人として働いていた。
慎平:もっとワクワクできる環境を欲していたというか。まだ知らない世界に飛び込んでみたいと思うようになりました。
行動派の慎平さんはお金を貯め、20歳で世界を放浪。海外で農業をしたり、自然に感動したり。
改めて感じたのは日本の魅力だった。そして日本の自然観光を意識するようになり、長野、東京、北海道などで働き、前職の静岡の会社に入社。
大輔さん:慎平は行動派やし雰囲気もってる。場の空気を変えることができる。クリエイティブで漁村には少ないタイプです。
慎平さん:シンペイのペーペークイズのことですか?
プレゼンやゲストにふるまうペーペークイズは、漁や魚に関するおもしろクイズで客の心をつかみ、笑いを誘う。今では明るく話す慎平さんだが前職を辞めて浦村にきたとき、大輔さんは本気度が伝わったという。
大輔さん:顔つきが違った。ピリピリしてるというか。オレも何かチカラになれないかと歯がゆい思いでした。民泊のリノベーションも雨漏り修理から始まり、なかなか思うように進まない。建物をマイナスからゼロにした。そして本当にオープンさせた。慎平はすごいことをやった。

慎平さん:やりたいことだったんで。海を眺めていると宝の山に見えてくるんです。あれもできる、これもしたい。そして地元漁師さんの助けがあって、僕でも田舎暮らしができてます。だから、浦村に遊びにきた人の1/1000人でも漁師になってくれればと思っています。
大輔さん:チカラの使い方。ギョギョリーマンしながら、それぞれの人が持つチカラを発揮して欲しいです。そういう人と漁村のテーマパーク化がしたいです。
最後に大輔さんがこんなエピソードを教えてくれた。魚種わらしべ長者・・。
大輔さん:10年くらい前に釣りで食物連鎖の実験をしたんです。チヌは牡蠣を食べるから、まず牡蠣の身をエサにして釣りをしました。そしたら本当にチヌが釣れた。カニはチヌを食べるから、同じ要領でチヌの切り身をエサに。そしたらカニが釣れた。カニをエサにしたらタコが釣れて、タコをエサにしたらハマチが釣れた。つまり牡蠣がハマチになった。わらしべ長者です。
大輔さんは続ける。
大輔さん:日本が元気=海が元気。オレらがオモロイことをやりまくる。お客さんがこなかったら、オレらがオモロないということ。海を、漁村を、バズらせないと。
地方移住がさけばれ、トレンドにもなっている昨今。移住の理由はそれぞれだが、人に惹かれて移住を選んだという声を聞くことがある。
海があり、空があり、笑い声が響いている。ここには大人が本気で遊び、働き、仕事と遊びに境界線のない田舎暮らしがある。
自分の人生も、もっとたのしめるはず!
そんな元気を、いただきました。
Anchor.(アンカー)漁師の貸切アジト
三重県鳥羽市浦村町1558-5
hp https://anchorajito.com
fb https://www.facebook.com/Anchor.ajito/
in https://www.instagram.com/anchor.ajito/
村山祐介。OTONAMIE代表。
ソンサンと呼ばれていますが、実は外国人ではありません。仕事はグラフィックデザインやライター。趣味は散歩と自転車。昔South★Hillという全く売れないバンドをしていた。この記者が登場する記事
















